認知症対策と二代にわたる財産承継を実現したケース
状況
福岡県内にお住まいのAさん(男性・70代)からのご相談です。奥様と4人のお子様がおり、お子様は全員独立しています。現在、Aさんご夫婦で不動産(マンション、土地と建物)の管理を行っています。万が一、A様が認知症などで体調を崩されて判断能力がなくなってしまった場合、これらの不動産の管理が出来なくなることを知り、不安に感じていらっしゃいました。
また、Aさん名義の預貯金も2,000万円弱お持ちでしたので、この口座が凍結されてしまい、介護や生活にかかる費用が支払えなくなってしまう可能性もありました。
長女さんが将来的には県外から戻ってくる可能性があるとのことで、もしもの時の不動産管理や預貯金の管理を長女さんに任せられないかとお考えでした。
家族信託の設計
当事務所では、Aさんがお元気な今のうちに、長女さんとの間で家族信託契約を結ぶご提案をしました。家族信託のスキームは以下のとおりです。
・信託財産:不動産(マンション、土地建物)、預貯金
・委託者:Aさん
・受託者:長女さん
・第一受益者:Aさん
・第二受益者:Aさんの奥様
・財産の帰属先:長女さん
認知症などによりAさんの判断能力が無くなった際には、長女さんが代わりに不動産の管理、賃貸、売却、修繕、建て替えなどの一切の契約行為を行うことができるようにしました。将来、不動産を売却もしくは賃貸することにした場合、その不動産から得た収益は、Aさんと奥様のものとして、長女さんが管理します。
また、生活費や介護費用に使うお金の管理や、介護施設の入居一時金など大きなお金を動かす際にも、信託した預貯金から、Aさんが必要なお金を引き出して対応することができるようにしました。
また、Aさんがお亡くなりになった後、奥様が認知症になってしまった場合にも、上記と同じことができるようにしました。
最後に、Aさん、奥様のご両名がお亡くなりになった後は、長女さんに信託財産であるマンションを相続させ、
その他の信託不動産は売却し、その売却代金と信託した預貯金は、4人のお子様で分けるように契約書に盛り込みました。
家族信託を行うメリット
不動産を複数、所有するAさんの場合、認知症になってしまった際のリスクが非常に大きい状況にありました。
認知症になった際の財産凍結を防ぐ方法としては、成年後見制度もありますが、家庭裁判所から監督されることになる、柔軟な財産の運用が困難になるなど、今回の事例ではあまり好ましくない結果になると考えられました。
また、今回の家族信託の設計により、認知症による財産凍結の対策だけでなく、円滑な相続(Aさん→奥様→長女様)を実現することができました。このように、2代先まで財産の引継ぎ方を指定することは、遺言では不可能であり、家族信託を利用する大きなメリットといえます。
なにより、Aさんや奥様がお元気なうちから、ご家族と財産の管理方法や相続についてお話いただき、ご納得いただけたこと、将来の不安を取り除くことができたことが、最大のメリットであるといえます。